「トップナイフ」──手術中は決してミスをしない、けれど氷のような冷たさをもつ医師たちが人の心に触れ、心の何かを成長させる物語。
「トップナイフ」読書感想 の項よりネタバレ有りですので未読の方はご注意ください。
書籍情報
タイトル:トップナイフ
著:林宏司
発売日:2019年12月26日
出版社:河出文庫
「トップナイフ」あらすじ
脳神経外科に君臨する天才医師たち。
医師の中でも最高峰の技術を持つ、深山瑤子を中心とした東都総合病院の脳外科医たちは、過去の苦しい記憶や、自身の描く理想と現実のギャップに翻弄されていた。
そんな中、特異な病気を抱える様々な患者と接するうちに彼らの心にも変化が生まれていく。
人体唯一の「未開の地」、脳を切り開き施しを与える脳外科医、
そんな「神をも恐れぬ傲慢な医師たち」の苦悩と希望のヒューマンドラマ。
2020年1月よりドラマ化決定!
元宝塚歌劇団トップスター、天海祐希さん主演でドラマ化が決定しました。
日テレ系全国放送、1月11日(土)22:00よりスタート!
出演キャストは他に椎名桔平さん、広瀬アリスさん、永山絢斗さん、三浦友和さん、古川雄大さん、など。
ミュージカル界の新星プリンスと名高い古川雄大さんが出演のドラマの原作ということで、まんまと釣られて買いました。
結構読書は好きな方ですが、読むのは専ら海外文学と日本純文学などばかり。
こういういわゆる「エンタメ小説」にはあまり馴染みがない、ましてや医療系なんて怖そうだし予備知識無いし…と悩みましたが、結論から言ってしまうと
医療系初心者でも読みやすい!
面白くてあれよあれよと言う間に読み切ることが出来ました。
ココが読みやすいよ「トップナイフ」!
医学的な専門知識は何も無いので、あんまり病名や専門用語については正直よく分かりませんでした。
手術のシーンは結構状況説明がリアルなので少しヒョエ…てなる。私はグロテスクなものが軒並みほんとにすごく大変なくらい苦手なので多分そのせい。
恐怖心強くない方は大丈夫だと思います。
また文体は重すぎず軽すぎずでスラスラ読みやすく、比喩表現に飛んでいます。
(中略)脳外科の中でも最高難度の手術で、登山で言うとエベレストだろう。そこを黒岩はひょいひょいと登っていく。
といった感じの例えがよく出てくるので読みやすいし、林宏司先生文書上手いなぁととても感動しました。
「トップナイフ」読書感想
※以下重大なネタバレを含みます!!!
冷徹な医師達が直面する人情的な苦悩
「トップナイフ」とは、優れた医師の中でもさらに優れた最高峰の人たちにしか送られない称号。
そんな称号を持つ医師たちを抱える東都総合病院脳神経外科のメンツは、どこか人情的にスレていて、天才ゆえに冷たい心を持つ者たちばかりでした。
しかし、様々な特異な病を抱える患者と接していくうちに、心の中のわだかまりが解かれ、自身の未来にあたたかい希望を見出す物語でした。
例えば、
東都総合病院脳神経外科のみんなのまとめ役であり、後輩医師に厳しい態度で接することも多い女医、深山瑤子(みやまようこ)
彼女は過去に多忙ゆえに夫婦間関係が悪くなり離婚、娘ともなかなか会えない日々を過ごします。
そんな中、突然娘が深山の前に現れ、家に居候します。
なにか悩みを抱えているという娘の話を聞いてあげて、力になれたと思い込み、
別れた夫と共に娘を育てている女性に対して良い感情もないので、
今後は自分が娘と一緒に暮らす、
と深山は言い出します。
しかし、元旦那たちが、深山と違いどれだけの長い時間娘と接して世話をしてきたのか、そして私は娘と今後彼らと同じように愛情を注いでやれるのか、という現実を突きつけられます。
そして、自身に縋る娘を突き放し、本当の家に帰れと目もくれずに告げます。
そして深山のエピソードは、孤高の深山が、
どれだけの時間、人目につかない場所で泣き続けてきたのか、
トップナイフであるためにどれだけの「自分」を押しころして来たのかを暗示して終わります。
例えば、
「世界のクロイワ」と称される天才医師、黒岩健吾は結婚歴こそないものの女遊びの絶えないどこかふしだらな男。
あとぐされはゴメンだ、と言わんばかりの彼だが、そんな黒岩の元にある日突然、
あなたとの間に生まれた子供を引き取ってほしいと言う女が現れる。
そんなの嘘だと藁にもすがる思いでDNA検査をするものの、「99.9%の確率であなたの子供」だという現実を知らされる。
そうして始まった同居生活、
最初こそ子どもを鬱陶しく思っていた黒岩だが、
「何に対しても現実感が湧かない」という症状を抱える患者と出会い、対話を重ねるうちに心に変化が現れます。
そうして、自分が養育権を取るとさえ思った矢先、件の女から子供を返せと言われる。
曰く、
「黒岩の子供だと言うのは適当にでっち上げた嘘で、
検査した医師とはグルで、
新しく見つけた男に連れ子のことを話したら、
連れてきていいと言われたから」
黒岩は、次第に自分に心を開いてくれた子どもと別れることになってしまい、
「黒岩の名前を使えば一緒にいたファミレスでいくらでもご飯が食べられる」
「大きくなっても通えよ」
とまくし立てるのです。
そうして別れたあと、黒岩は1人で涙を流していました。
他にも「いじめられっ子だった過去の自分」を助けられない若き天才・西郡琢磨、
天才すぎて「心に触れる」ということが分からなかった恋愛偏差値ゼロの新人医師・小机幸子などなど…
トップに君臨する天才たちは本当は誰にも言えない悩みを抱えていて、患者との対話の中に鍵を見つけて過去の己を飛び越えていきます。
医療のみならず、天才とされる人物も、普通の人間のように弱い一面を持っているということ、
人が人を天才と呼ぶのはどこかぶっきらぼうで時に冷たいこと、
自分にない才能を他社に見た時、それを人は「才能」と呼び「天才」と褒め称えているのに過ぎないこと…
色々なむず痒い人間の心に触れられる素敵な小説でした♪
※ドラマ放送開始日の表記ミスを訂正しました。