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読書感想「フランケンシュタイン」:本当の“怪物”は怪物か、人間か。

 

ハロウィンシーズンのコスプレでもおなじみキャラクターとなっているフランケンシュタイン。喋らない(知能が低い)、怪物の名前がフランケンシュタイン、身体はツギハギといったイメージがありますが実際は・・・?

19世紀イギリス、女流作家メアリー・シェリーがわずか19歳の頃に着想を得、筆を執った。シェリー夫人の最高傑作。

の書評記事!

『フランケンシュタイン』の概要

書籍情報

タイトル 新訳 フランケンシュタイン

著者 メアリー・シェリー(Mary・Shelley)

訳者 田内志文

出版 角川文庫

あらすじ

自然科学の世界に魅了され、将来を嘱望される、若き科学者ヴィクトル・フランケンシュタイン。創出と生命の原因を突き止めた彼は、生命を持たぬものに魂を吹き込むことに成功する。しかし、想像を絶する怪物の姿を目にした途端、恐怖におののきその場から逃げ出してしまう。絶望の淵に突き落とされ、故郷へ戻ったヴィクトルを待ち受けていたものは、自分が創造した怪物の復讐だった。産業革命最盛期に執筆された傑作が甦る。(『BOOK』データベースより引用)

大学生のときはイギリス文学ゼミに所属していました。ゼミの先生とこの本について考察や感想を話し合ったのは今でも良い思い出です。

ゴシック小説好きすぎる。久しぶりに読み返したら相変わらず面白かったのでこの記事を書かずにはいられなかった。

人よりも人らしい怪物の感情描写に注目!

一般的に何をもってして私たちは人間を人間と呼ぶのでしょうか。二足歩行?考える力がある?人とは考える葦であるから?
では、もし二足歩行で思考力があるにも関わらず人間とは認められないものがいたとしたら、何が「人間」で何以外が「人外」なのでしょう。

はびこる差別や白人主義といったものは、差別する側は自分たちのことをエリートだと思い、差別対象のことを「見た目が違う」「野蛮人だ」「私たちの平穏を踏み荒らすつもりだ」だのと、彼らを理解できないものだと拒否する。レイシズムだけに限らず、私たちの送る日常にもこのような意識は溢れている。
いじめだって、「偉い私たち」と「虐げられるべきお前」の構図、差別社会の縮図です。

こういうエリート意識が生まれる背景には、人間は理知的であり冷静、賢い生き物だという認知があります。反対に、例えば怪物や悪魔は冷酷で自身の欲望に忠実に行動する悪徳生物だと考えられているのではないですか。

この際、差別する側は自分たちのことを「人間だ」と信じてやまないのです。

『フランケンシュタイン』はそういった、
人は冷静で文明化されている、怪物は野蛮で非文明だ
という認知をそっくりそのままひっくり返したような描写が多くあります。

怪物は見た目こそ醜悪ですが、とても綺麗でやさしい心を持っていました。自然を美しいと思い愛でる。清らかな心を持っていました。

怪物は実験によりフランケンシュタインに産み出され、そして捨てられるのですが、それでも言葉を使って冷静に自分の願いを打診します。彼は「対話」というものを知っている。

 「落ち着け! 呪われたこの頭にその憎悪を打ち下ろすその前に、聞いて欲しいことがあるのだ。これまでの俺の苦しみだけではまだ足らず、更に苦痛を与えたいのか。たとえ命が太り続ける苦しみの塊だろうとも、俺にはどれだけ愛しいか。だから、俺は守るぞ。(後略)」P.172

フランケンシュタインの目前に現れた怪物は怒れる創造主を諭します。自身が屈強な体格をしており、フランケンシュタインには勝ち目がないことを教えながらも、自己防衛のために手をあげるかもしれないことを伝えます。

「(前略)どうか他の者どもには公正で、俺だけを踏みにじるのはやめてくれ。(後略)」P.173

「おぞましい見た目だから」というだけで怪物を拒絶するフランケンシュタインの心を見抜いた鋭い発言も。

「(前略)至るところに至福が見えても、ただ俺ひとり頑としてのけ者なのだぞ。俺は温厚で善良だった。不幸が俺を悪鬼に仕立て上げたのだ。だが幸福を与えてくれるなら、善心を取り戻そう」P.173

うーーん知性が高い。

怪物の繰り出す詩的で自己分析に富んだ言葉が綺麗なのでグッと引き込まれます。

それとは反対に怪物を生み出した張本人ヴィクター・フランケンシュタインは怪物を恐れ、憎み恐怖し彼の言葉を聞き入れない。怪物の言葉をかみ砕くことなく全否定を押し通そうとします。

この一連の言葉に対してフランケンシュタイン

「失せろ! お前の言葉になど誰が耳を貸すか。話すことなど何もありはしない。俺たちは敵同士なのだ。失せぬのならば俺かお前か、どちらかの息の根が止まるまで戦い尽くすことになるぞ」P.173

体格では到底かなわないってさっき怪物も教えてくれたでしょう!?

徹頭徹尾怪物の言葉を聞いていないフランケンシュタイン。

これには流石に怪物も「どうしたら分かってくれるのだ?」と返事。

この後に続く言葉もあまりにも美しくいのに悲劇に満ちているので、本当に怪物の言葉はすべて紹介したくなってしまいます。

純粋な心を持ち、どうすれば自身の精神が落ち着くのか冷静に分析しており、ヒトに与えられた「対話」の力を上手く使いこなす怪物、

自ら創出した怪物に恐れおののき逃げ出し、身の上の不幸に取り乱し、怪物の言葉を聞かず頭ごなしに否定し続けるフランケンシュタイン、

いったい本当の怪物は誰で、本当の人間はだれなのでしょうか。

そして最後は…最後は……
ぜひ読んでみてね。

まとめ

怪物を作り出すというストーリーは非日常的なSFですが、この作品は人間の醜悪な部分を人間と怪物という相反する二者を通して生々しく描いているヒューマンドラマでもあります。

このストーリーはフランケンシュタインと怪物だけで成り立っている訳ではない。

怪物にとても優しくしてくれる盲目の老人の存在、公平なジャッジをされぬまま罪を着せられた召使い、フランケンシュタインを気遣い優しさの限りを尽くしてくれた友人など。

フランケンシュタインの科学者としての顔、アンリの前で見せる友としての顔、家族に愛されている長男としての顔、そして怪物の前で見せる憎悪の顔。様々なシチュエーションで満遍なく語られます。

だからこそ、容姿だけで他人をジャッジして先入観や偏見を持つことのないあたたかい気持ちがどれだけ大切なのかを考えずにはいられない。

著者のメアリーシェリーがこの作品を書いたのはたった19歳の頃。
フェミニズムの創始者である母親と、無神論者でアナーキズムの先駆者である父親とのあいだに生まれ、夫は詩人のゴドウィンでした。
様々な価値観と思想に触れたシェリー夫人だからこそ描くことができたこの『フランケンシュタイン』、ぜひ1度読んでください。

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この本が好きな人・気になる人にお勧めの書籍

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